『異世界なら、私も無名の有名画家』レビュー|絵で心をつなぐ異世界ファンタジー

あらすじ

絵を描くことが好きな会社員・田口直美は、荷物の運搬中の事故で異世界へ転移してしまう。帰る手段も分からないまま「旅する画家」として生きていくことを決意。写実的な筆致と、依頼者の思いをくみ取る温かい作風が評判を呼び、次第に多くの依頼を受けるようになる。異世界で絵を通じて人と心をつなぐ、穏やかで優しいファンタジー。

評価

絵の美しさ (4)
演出力 (5)
キャラクター (3)
世界観 (3)
ストーリー (4)

※評価は筆者の主観に基づくものです。

総合: 3.8 / 5

書評

『異世界なら、私も無名の有名画家』は、
絵を描くことを通して人の心に寄り添う――そんな静かな感動の物語を描いている。

主人公のナオミは、特別な力を持つわけでも、壮大な使命を背負っているわけでもない。
異世界に転移したことをきっかけに、大好きな絵と改めて向き合い、
ただ真摯に、目の前の人の思いをくみ取りながら筆を重ねていく。

彼女の絵は、依頼者の感情を写し取るような温かさがあり、
ときには失われゆく思い出や、二度と見られない風景を絵の中にとどめる。
そこに派手なドラマはないが、
絵を描くという行為を通じて人の心が少しずつ癒えていく過程が、丁寧に描かれている。

異世界という新しい環境で、ナオミは自分の好きなことと向き合う。
絵を描くことで、人の心の奥にある、言葉にならない思いや気づかれない感情をそっと形にしていく。
目には見えないものを描き出す――その静かな行為が、この物語の魅力を支えている。

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